女川町誌 続編
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いるのだから、文字にして多くの人に読んでもらったらということになった。まず一五話を選んでガリ版印刷の小冊子を七〇部作り、入院患者や看護婦さんなどに配った。これが予想以上の好評を博し、民話伝承者としての岩崎としゑさんの存在が口伝えに世に広まり始める。 昭和四十年代の後半から宮城県立図書館の館報にとしゑさんの書いたものが載るようになり、さらに五十年代後半、民話の収集・保存に取り組んだ県の文化財保護課が岩崎さんの語りの採録を取り上げることになると、としゑさんは一躍県内のマスコミの注目するところとなり、NHKをはじめ民放各社からテレビ・ラジオへの出演依頼が相次いだ。昭和五十七年には松谷みよ子氏の主宰する松谷民話研究室の手でまとめられた岩崎民話の集大成が『女川・雄勝の民話』(『日本の民話』別冊)として日本民話の会から発刊された。 同書は本町生涯教育センター内の図書室に、また録画ビデオ及び録音テープは同視聴覚室に保存され、希望者には貸出しを行っている。 本来、民話については、同じような話の分布範囲は重要であっても、その内容の事実関係を詮索せんさくすることはどうかと思われるが、民話としての熟成度の低い覚え書きの場合は話は別である。『女川・雄勝の民話』に収められている「せえさんと犬」は大正時代初期に女川で実際あった話として記憶する人があり、指摘を受けた。内容はほとんど相違ないが、としゑさんが嫁入り先の義父から聞いた話として本町横浦でのこととするのに対して、女川一中へ上る坂の上り口から右手の丸子山斜面(昭和になって作られたコンクリート水槽の跡が今も残る)に小屋掛けして住んでいた老人と犬の話であるという。念のため、そういう指摘のあることを付記する。 437

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