女川町誌 続編
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この漁法も最近は潜水夫による採捕に変わり、見られなくなった。 ☆黒真珠に魅せられて 天然アワビの中に半球の真珠が発見されることは、まれではあるが、古くから知られており、ピーコック・グリーンと呼ばれる緑黒色のアワビ真珠は、欧米では装身用というより宝物として珍重されてきた。こうしたアワビ真珠の養殖が、アコヤ貝真珠の養殖業者はもちろん、学者にとっても極めて魅力ある課題となったのは当然のことであろう。しかし、多くの研究者の長年の努力にもかかわらず、アワビという繊細な生物は人間からの働きかけを頑固に拒み続けていた。 昭和二十八年、三重県尾鷲のカツオ船に乗っていた女川町尾浦の一青年が、乗組員の雑談の中で、この話を耳にした。世界にまだ成功例がないという一点が彼の若い心を強く引き付けた。「だれにもできないことをやり遂げる」、それは青年のロマンとして多かれ少なかれ、だれにも覚えのある夢であるかもしれないが、実際にそれに取り組むということになると、話は別になる。 ところが、十九歳の小松金市青年の胸に宿った夢は普通尋常の夢ではなかった。夢は膨らむ一方であった。小松青年の心は、日ごとに濃くなるアワビ真珠のピーコック・グリーン一色に染められていった。 ついに、二四歳にしてカツオ船を下りた小松さんは、この夢に自分の生涯を賭かける決心をした。それから五年、昭和三十六年に世界初のアワビ真珠五個をとりだし、三十九年の全国発明工夫コンクールで発明奨励賞を受賞して世に認められることになった。小松さんの辛苦は、ここで詳説する余裕もないが、想像を絶するものがあったと思われる。 格別の素養も、財力もなかった一介の青年が、学者もサジを投げかけていた至難の研究への挑戦である。無謀のそしりも、周囲の冷淡もかならずしも無理とはいえな 235

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