女川町誌 続編
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この漁法には、島社会の一面を反映する江島独特の発達過程もうかがわれ、社会科学研究のテーマにもなっている。 アワビかけ漁は、サッパ舟一隻に舟の移動を受け持つカジマオシ、ヘコデと、一又は二人のナカヌリ(採捕者)が乗り組んで行われる。ナカヌリ一人の場合は、ヒトリガケ、二人の場合はフタリガケという。カジマオシはトモ(船尾)の左舷でカジマガイを操って舟を移動したり、静止を保つ役割をもつ。ヘコデは舟のオモテ(舳)の左舷で、カジマガイより細見のヘコデガイを使い、カジマオシに対して補助的な立場で操作に当たる。したがって、事情によってはヘコデを欠くこともあり、カジマオシよりは経験の浅い、女子や青年男子がヘコデを務めることもあった。ナカヌリは、水眼鏡をのぞきながら、先端にアワビ鈎かぎを付けた長い竹竿を巧みに操って、岩礁に吸着しているアワビを一個ずつ引っ掛けて手操りあげる。水眼鏡を逆利き手で押さえ、利き手で竹竿を操作することもあれば、水眼鏡をひたいで押さえ、あるいは口にくわえて、両手で竹竿を操作することもあった。ナカヌリが舟の操作をカジマオシ、ヘコデに指示しながらのアワビ採捕作業は長年の経験による高度な熟練と勘を要する仕 事であり、名人と呼ばれる者もあった。 3 ナマコ曳き漁(こしき網漁) この漁法は、海底の砂泥地に生息するナマコを図に示すような曳き網を使って採捕するもので、女川湾内の各浜で十一月から一月にかけて行われた。水深一〇㍍内外の海底に下した網を、一人又は二人が小舟を操って底引きする。 234

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