女川町誌
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指定漁港争奪熱(新聞記事)双方特徴を主張して飛躍渡波石巻の女川応援熱漁港問題は果然豫想の如く女川・気仙沼両港の争奪戦となり、昨今両地方民はその渦中に投げ込まれ、全智を絞り全力を挙げていよいよ真剣運動を開始するに至つた。農商務省当局に於ける意嚮が果して宮城県下に一漁港を指定すべく決定したるものかどうか固より未だ確然したものではない、斯かる場合早くも同一県下の港湾が争奪戦の開始を見るは一見いかにも気逸い観がある。然るに政府当局が三陸沿岸に於て一箇所を選定するといふ計画は確実なもので、三陸沿岸と云へば宮城岩手青森を包含し居り、かねて良港と称せらるゝ岩手県の大船渡港の運動猛烈とならば、或は宮城県沿岸忽ち不利な立場に陥らぬとも限らない。故に本県下に於てたとへば争奪反目にしろ盛んなる要求運動を実施する事は強ち無意味な業ではなからうといふ。抑も女川と気仙沼との漁港適否については餘程厳密慎重な調査研究に俟たねば比較断定は不可能にして各一長一短あり、軽々に批判し何れを好適とし何れを不適なりと断ずる者あらばそれは両港に関して何等の知識無き者の言である。恰も気仙沼町民が気仙沼の良港を誇張するにはより良港の女川を知らざるに因り女川村民が女川港の優良なるを叫んで居る反面には、気仙沼が如何に水産界に雄飛発展しているかを知らざる錯誤を有つて居る。然しながら公平な第三者の立場より両港の比較批評を試むるならば金華山漁場に接近し、金華山附近の難航路避難の便宜、湾港自然の儘で絶対風波の憂ひを避け得るという点で女川は既に独立の天恵を享けて居り気仙沼港が如何に自港を自讃すればとて女川と相撲にはならぬ、目下の処は両港とも陸上交通の設備が欠けてるが、気仙沼は来る十四年度までには磐仙鉄道の開通となり、女川は夫より早く十二年度中には渡波間の自動機関軌道の開通となり、それが女川・石巻間を完全に連結し僅々一時間内外で往復が出来る事となる、該軌道の開通は女川開発のため如何に影響するかは今後の事実に徴すべきだが、恐らく漁港の設置なくともやがて塩釜に次ぐの繁盛を告ぐであらうと見られる。斯く女川の発展は塩釜気仙沼の脅威であるが一方渡波・石巻の興隆に資するところ頗る甚大なれば、両町民の女川応援熱は非常なものでさえもあるべき事である。187

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