女川町誌
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が、両港の内いづれかに決定を与へられたいといふのだ、県は明年度豫算に於て漁港調査費を計上したので、遽に本問題は速進的気勢をそゝつて、かくの如き三十名の県議同意の意見書となつて現はれたのだ。要するに主意とする所は本県重要漁港の問題に経済的発達を企図するもので、女川・気仙沼両港とも盛衰の分岐点で本問題によつてそれが決するのである。紙上巳に伝ふる如く石巻渡波女川方面一帯に亙り、女川漁港の承認運動が惹起し、益々熾烈開始されたが意見書の現はれた上を見ると、表面上誠に両者円満に提携した様ではあるが該問題の核心に触れて見ると両者共に意見があるのである。まず気仙沼漁港にして見るとこれを女川港に比すると海産物の能率から見るも漁港天然の構致から見るも漁場設備の程度からするも両者の懸隔は著しく相違がある事が窺知され、更に本県開発の上に考へ及ぼすと天然的資産は正に気仙沼に軍扇を上げなければならぬ経済的勢力も維持されて居るのである。いはゆる仙北に於ける漁港の進展如何は同港によつて著しい色彩を帯びて居る事が信せられるのである。気仙沼は従来一寒村に過ぎなかつたが玆数年同港有志の斡旋によつて頓に優勢となり、殊に大正十四年を以て完成する岩仙鉄道が開通すれば海陸交通上の運輸連絡は全く一切を解決するもので些かの遺憾なきを示すのである。而も同港近来は鹿折方面に異数の発展を示し、陸上交通の完成を漁港施設の如何によつては、優に県下第一屈指のものとなり、現在に於ても罐詰工場蒲鉾工場鰹製造場の如きは到底他港の追随を許さぬものである。郡内一年一千万円の貨物集散高の内実に七百万円は気仙沼によつて支配されて居るのである。また漁獲期に於ては同地方に出入する漁場労働者数は三万五千の多数に上り誠に目醒しいものがある。本県主要産物である海産物現状は水産年額千七百万円で、この内約五分の三は独り気仙沼を中心とする産出であつて、右年額の五分の一は牡鹿方面女川・石巻の生産であり、他の五分の一が漸く沿海四郡のものである。右統計に現はれたるを見ても如何に気仙沼が他港に比して将来有望であるかは顕らかである。由来金華山沖は寒暖潮流が合流して、魚族の群集は世界三大漁場の一に指を屈せられる程で、気仙沼が少しく北方に位して居るも到底石巻・女川の遠く及ぶ所でないのである。尚牡鹿と本吉と漁夫の数から比較するも本吉其の上位を占め、殊に湾内は水深二千屯級の船舶を容れ独り東北的のみでなく日本的にもまた其施設によつては世界的漁港となるべきである。186

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